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(下)刑務所に入れられることへの不安がない累犯障害者、“刑罰”の無力…福祉はどこまで有効?

 精神年齢が「4歳7カ月」という鑑定結果を理由に、京都地裁が自動車盗を繰り返した男(37)に無罪を言い渡して約1カ月後の平成25年9月。今度は30代の累犯障害者の女性に大阪地裁が執行猶予付きの判決を出した。前科があったため実刑もあり得たが、判決理由には「福祉の援助が期待できる」とある。

 女性は店舗で万引をし、とがめられた保安員にけがをさせたとして窃盗と傷害の罪に問われていた。検察側は控訴せず、判決は確定。女性は勤務先や病院を紹介してもらい、家族とともに平穏な生活を送っているという。

 執行猶予付き判決を求めた弁護側にブレーンとして加わったのが、社会福祉士だった。女性の支援計画を練り上げ、刑事裁判に使える証拠を作ったのだ。

 「のぞみの園」(群馬県高崎市)のように刑務所を出た累犯障害者に特化できる福祉施設の「楽園」は、現実には数少ない。ならば最初から刑務所に入れず、福祉の力を借りながら地域社会で更生させればいいのではないか。「基本的人権の擁護」を使命とする弁護士が、福祉の専門家に着目したのは、自然な流れともいえる。

A4用紙数枚で

 検察当局は累犯障害者を起訴するか不起訴とするかの判断に、社会福祉士の意見を活用する取り組みを始めた。が、先行していたのは弁護士の方だった。

 大阪弁護士会は3年ほど前から「更生支援計画書」と呼ばれる書類を、刑事裁判の証拠として試験的に利用してきた。A4用紙数枚ほどの分量で、累犯障害者が身柄の拘束を解かれた後、定住する場所や利用できる福祉サービス、医療機関などを列記する。生活保護の受給を手伝うことや、長期にわたる支援態勢を詳述することもある。書くのは社会福祉士だ。

 今年6月には、計画書を使う制度を本格実施に移した。全国の弁護士会で初めて社会福祉士会と連携。累犯障害者の刑事弁護を担当する弁護士を、福祉に詳しい弁護士が手助けし、社会福祉士につなぐ。

 手始めに6月4日に開いた研修会には、弁護士約90人が集まった。登録3年目の若手弁護士が、精神障害がある被告の弁護で計画書を使った経験を紹介。「本人の更生に役立つし、何より執行猶予が取れる可能性が高まる。刑事弁護では当然、武器として使うべきだ」と強調した。

検証、報酬なし

 だが、計画書の活用には課題が多い。

 累犯障害者が計画書通りに福祉の支援を受けて更生しているかどうか、法律に基づいて検証する仕組みがない。また、福祉の善意に頼って報酬を出していないため、社会福祉士会からは早くも「財源を担保してもらわないと続かない」と危惧の声が漏れる。

 何より、被害者感情を置き去りにしたまま、罪を犯していない大多数の障害者と同列に扱うだけで、累犯障害者が真の更生を果たせるのかという疑問が残る。福祉側も十分な受け入れ態勢は整っておらず、必ずしも累犯障害者の再犯防止につながるとはいえないのが現状なのだ。

 刑罰を回避するだけの、福祉への「丸投げ」と批判されかねない状況を認識しつつ、計画書の導入を推進した辻川圭乃弁護士は、こう断言した。

 「魔法のように効果が表れるわけではないが、続けるしかない。累犯障害者を刑務所に入れるのは、百害あって一利なしだからだ」

2014.8.10 07:00 MSN産経ニュース

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