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障害者も旅の楽しみ

 脳卒中などで体が不自由になり、引きこもりがちな人たちに、旅を通じて積極性や意欲を取り戻してもらおうという活動がある。横浜市で行われている「旅リハ」。参加者には「生きる自信になった」と好評という。

自信と意欲を取り戻す

 「どこへ行っても多少のバリア(障壁)はある。それをどうしたら乗り切れるか、一歩踏み出すのは難しいけれど、不安や疑問を一緒に考える仲間を作って生活の幅を広げましょう」

 横浜市の障害者スポーツ文化センター横浜ラポールで、先月20日に開かれた旅リハ説明会。つえや車いすを使ってやってきた30人以上の参加者を前に、スポーツ指導員の宮地秀行さん(45)は呼び掛けた。

 旅リハは、旅を通じた心と体のリハビリテーション。脳出血などの病気で体が不自由になり、外出に消極的になっている人に、前向きな気持ちを取り戻して活動的になってもらおうと、2006年、7人を沖縄旅行に連れ出したのが始まり。当初は宮地さんらのボランティア活動だったが、08年から横浜市リハビリテーション事業団の正式なリハビリテーション・プログラムになった。

 動作が遅くてもマイペースでよく、気兼ねせず好きなことをするのが旅リハの基本。ただし、自分なりの達成目標を持ち、各自が障害程度によりプランを立て、自立した旅行を目指すのが条件で、いわば「旅を楽しむ実地訓練」だ。医師や看護師、理学療法士といった専門家も同行してサポートするため安心感があり、旅先では、現地のボランティアの手助けを受けることもある。参加者は旅費など実費負担が必要で、3泊4日の沖縄旅行で約10万円。

 07年から3年連続で参加したという東京都世田谷区の清水美智子さん(74)は、脳梗塞で左半身がまひしている。それ以前から家族や友人と旅行することはあったが、足手まといになるのを気にして、いつも車いすを使っていた。そこで、旅リハ初参加で行った沖縄では「旅行中は自分で歩く」と目標設定。首里城の階段もつえをついて自力で上り、全行程を“踏破”した。「自分もこんなにできるんだ、と生きる自信がつき、行動範囲が広がった」と清水さん。

 脊髄を傷めて両足が不自由になった同町田市の米川稔さん(70)は、10年の沖縄旅行に参加。鍾乳洞の階段100段以上をつえをついて下り、「できることは自分でしっかりやらなきゃ」と実感。以後、歩く機会が増え、仲間と旅行サークルを作って旅を楽しめるほど積極的になった。「皆でわいわい集まるようになって、体調もよくなりました」と楽しそうだ。

 旅リハの意義は、〈1〉当事者の自信と意欲を引き出す〈2〉付き添う家族も楽しめる〈3〉障害者がいるのが当たり前になるよう社会にメッセージを発信できる〈4〉医療、福祉関係者の学びのきっかけになる――点だという。宮地さんは「旅行の楽しさを(呼び水に)利用して、当事者の主体的なチャレンジを応援したい」と語る。

 横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション科の医師、栗林環たまきさん(36)は「病院のリハビリテーションは日常生活の自立を目標にしており、退院後の社会生活に必要なことまでは習得できないことが多い。旅リハは、動くことに自信がつくよい機会になる。ただ、楽しすぎてつい動き過ぎないよう、配慮が必要」と話している。

旅リハの流れ

約2か月前
 オリエンテーション
 旅の仲間づくり
     ↓
約1か月前
 障害状況に応じた旅行プ ラン、旅先での行動計画
     ↓
 出発空港(または駅)見学
 ルート体験
     ↓
約2週間前
 最終説明会
 準備状況の確認
     ↓
 旅行へ

(2012年10月18日 読売新聞)

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