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医師、原田正純氏(大貫 康雄)

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今年亡くなられた方々で、やはり忘れてはならないのは、原田正純さんであると思う。

原田さんは、「公害の原点」と言われる「ミナマタ」の被害者の治療・救済と、水俣病の原因である有機水銀中毒に関し、被害者の立場から診断・研究に生涯をささげた医師・医学博士で、2012年6月11日、急性骨髄白血病のため死去された。77歳だった。

水俣病の被害者に対する日本政府の対応の杜撰さ、冷淡さは世界に衝撃を与えた。原田さんの生き方は、障害に苦しむ人を治療する医師、障害の原因を追及する科学者、そして障害の原因の公害を発生させた企業及び政府の責任を問い、被害者の救済・補償を求める活動家としての一生であった。

水俣病は、既に症状が戦時中から見られたが確たる証拠はなく研究も進められないまま被害が徐々に拡大していく。1956年、熊本県水俣市で確認されて、その病名がつく。公害物質垂れ流し、環境汚染による食物連鎖(有機水銀→魚介類→人間)で引き起こされた歴史上初めての公害病である、と言われる。

また戦後日本政府の産業優先・被害者軽視・後回し行政の矛盾を象徴する「事件」でもある。この産業優先・被害者軽視の政府の体質は、福島第一原発事故と、現在進行形の原発放射能被害者救済の経緯を見ても今も変わっていない。

原田さんは、水俣病が確認されて間もない1960年、当初は熊本大学大学院の研究員として原因追求に取り組む。

水銀の生命・人体に及ぼす影響は、今でこそ一般的に知られている。しかし当時、人類の医学・科学はそこまで解明が出来ない段階だった。無機水銀が有機水銀に変わる経緯、水銀を含む魚を食べた母親から胎児への影響など、殆ど解明されていなかった。

そのため熊本大学医学部研究班は東大、東京工大、東邦大、東京医科歯科大などにいる中央の御用学者たちからの反撃を受ける。

中には「貧しい漁民が腐った魚を食ったため」などと暴言を吐く学者も出てくる。熊本大学医学部は一時、学会からも締め出される。大勢順応、御用学者が幅を利かせていた(この構造・体質は東京電力福島第一原発事故後の日本の原子力学会や地理学会などの動きを見ても、何ら変わっていない、ようだ)。

水銀を含む工場廃液を水俣の海に垂れ流していたチッソは一貫して責任を認めず、逆に被害者に非があるような噂を振り撒いたりする。陰に陽に被害者側の動きを妨害し、また日本政府も責任を認めないまま年月が過ぎる。

水俣の豊かな海に生き、豊かな海の幸で生計を立ててきた人たちは自分たちの知らぬ間に生活が一変。暗転する。幾多の原因不明の障害に苦しみ、世間の無理解、いわゆる風評をまきちらされる。真相を知らないために起きる偏見・差別にさいなまれ、苦しむ。

救済の手を差し伸べられないままに置かれていた。

水俣病患者・被害者を救う活動を原田さんは熊本大学を離れてからも続けられた。何度も現地に足を運び、被害者と向き合い、付き合い、一人ひとりの相談に乗りながら支援を続けた。「ミナマタ」に生涯をかけて取り組み、何本もの研究論文を世界に発表してきた。

政府や企業の責任を問い、被害者への充分な補償を求める訴訟団の先頭にも立ってきた。

姿勢は一貫していた。事件の真相追及に欠かせない、被害者の立場・視点からのものだった。

原田さんの目はミナマタに留まらなかった。カネミ油症や食品公害、ブラジルやカナダの水銀汚染の被害、ベトナム戦争時に大量に散布された枯葉剤の被害など世界各地に足を運んだ。

「ミナマタ」がもたらした衝撃と原田さんの活動は世界の科学者や活動家をひきつけ、各地に招かれている。

晩年、原田さん自身は胃がん、食道がん、脳梗塞などの思い病気に苦しみながらの活動だった。

2009年、水俣病特別措置法が成立すると被害者に集団検診を呼び掛け、偏見や差別を恐れて被害認定の申請をしなかった人たちに働きかけた。

政府は認定申請期限を設けたが、いわゆる「埋もれた被害者・患者」が今も、相当存在しているといわれる。ミナマタは依然として終わっていない。

原田さんの活動、一生はテレビ、新聞、映画などで紹介され、ミナマタに関しても多くの著書やドキュメンタリーが世に出されている。NHKがETV特集で11月「原田正純 水俣未来への遺産」を2回放送しているのでご覧になった人も多いだろう。被害者・患者の人たちが原田さんを見舞う場面などが紹介され、その時の原田さんの柔和な笑顔が印象に残る。

原田さんの生涯は筆者のような凡人には及びもつかない。語りつくせない。医師としての良心、科学者としてのあるべき姿を実践した一生だった。

News Log- 2012年12月30日 大貫 康雄


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