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Channel: ゴエモンのつぶやき
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社説:2013年を展望する 受益者が社会を変える

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 木漏れ日が差す丘陵の道を上っていくと、コロニー(入植地)の面影を残す施設群が現れた。千葉県袖ケ浦市にある千葉福祉園は1943(昭和18)年に建設された。戦火が激しくなる時期、東京都内の障害児を収容するため房総の森を切り開いて造られた「都外施設」である。古い時代の空気がそこはかとなく漂っているが、今も東京都内の障害児者ら約600人が暮らす。

 福祉にとっての「疎開」は戦争が終わってから加速する。北海道から九州や離島まで、地価の安い地方に入所型の施設が建設され、都市の高齢者や障害者、親のない子どもたちが送られた。地方にとっても雇用の確保につながった。

 ◇危機の本質を見よ

 日本経済が隆盛を極め、バブルで踊ったころも疎開は続いた。成長に必要な人材やカネや情報を都市に集め、必要ないと思われた人々を地方に追いやって、この国は繁栄を求めてきたのだ。

 時は移り、今は都市部の猛烈な高齢化と人口減少に直面している。坂の上の雲をめざして走り続けてきたつもりが、ふと気づくと下り坂で足がもつれているかのようだ。年金や高齢者医療への国民の不安や不満が高まり、その風を巧みに取り込んだ民主党が政権交代を果たした。しかし、3年3カ月の間、民主党の社会保障政策は一体改革を除いてほとんど成果を上げないまま終幕した。

 制度をどう改変しても、人口構造の下り坂を以前の上り坂に戻すことはできない。危機の本質は、受益者と負担者のバランスの急激な変化である。制度のほころびを繕うことは当然だが、いたずらに危機感をあおり、根拠の不明瞭な改革案を政治に利用しようという時代は終わりにしなければなるまい。

 現実に向き合おう。少子化や子育て支援、若年層の雇用など負担する側の土台を再構築することが最優先課題だ。年齢で受益者と負担者を区分けするのではなく、元気で意欲のある高齢者は働き続け、経済的余裕のある人には負担もしてもらわねばならない。福祉を受給する側から社会を支える側に回るのは財政の都合だけではない。本当の意義を理解するために、この時代に生きる私たちの意識が変わらなければならない。

 「トリクルダウン」とは、金持ちがさらに富めば底辺の貧困者にも自然に富が滴り落ちるという新自由主義の政治思想だ。企業の内部留保や投資家への還元が優先され、底辺には滴り落ちてこないではないかとの批判は強いが、戦後の復興から今日まで国全体が繁栄してきたことで高齢者や障害者の暮らしもまた守られてきたとは言えるだろう。
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毎日新聞 2013年01月05日 02時30分(最終更新 01月05日 13時50分)

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